論点

第1回 太陽とともに起き眠る 2006.1.16

第2回 防犯の地域力は人間関係の中に 2006.2.13

第3回 マネーゲームには無縁の農業 2006.3.20

第4回 平成の農政大改革への危惧 2006.4.24

第5回 感謝して命をいただく 2006.5.22

第6回 農の風景「棚田」を守る 2006.6.19

第7回 食料輸入超大国の行方は 2006.7.24

第8回 二度と戦争を繰り返さない 2006.8.28

 今年の八月十五日で終戦六十一年目を迎えた。
 六十年を過ぎた今日、憲法九条の改正問題が急浮上している。改憲の積極的な賛成者は、近隣諸国からの侵略の防衛や抑止のために、また海外に派兵して国際貢献もできるようにするために、軍の保持を明記して自衛隊を疑いなく合憲にしようと主張する。さらに現憲法はアメリカに押し付けられたもので自主憲法ではなく、また今日の世界情勢にも合わないなどを、憲法改正の根拠としている。
 第二次世界大戦では、軍人二百二十万人、一般人九十万人、計三百十万人もの日本人が犠牲になった。世界全体の戦死者数は五~六千万人とも言われている。最前線で戦ったのは、為政者や軍の首脳部ではなく、多くは一般庶民の兵員であった。しかも戦闘で死んだ者より、餓死や精神病者が多く、ビルマ(現ミャンマー)に送り込まれた日本兵約十万人の犠牲者の多くはジャングルの中をさ迷う餓死・病死者であったという。
 さらに特攻隊の悲劇は周知のこと。万世飛行場の特攻隊員を見送った女子青年団員のMさんは、「日本を救うため本気で戦っているのは大臣でも政治家でも将軍でも学者でもない。体当たり精神を持ったひたむきな若者や一途な少年たちだけで、あのころ、私たち特攻係りの女子団員はみな心の中でそう思うておりました。ですから、拝むような気持ちで特攻を見送ったものです。特攻機のプロペラから吹きつける土ほこりは、私たちの頬に流れる涙にこびりついて離れませんでした。」(作家・神坂次郎氏の対談から)。
 死者の多くが軍人だった第一次大戦に比べて、民間人の犠牲が軍人を上回ったことが第二次大戦の新しい特徴である。戦争が軍人だけではなく、多くの非戦闘員を巻き込み、いかに悲惨なものであるかは、島民をも巻き込んだ沖縄戦争、三十万人死者を出した広島、長崎の原爆投下、多くの住民を虐殺したベトナム戦争、そして近年の中近東での戦争など、枚挙にいとまがない。戦争は子供、女性やお年寄りなどの民間人をも犠牲にすることを忘れてはならない。
 戦争を体験していない人たちに、戦争が多くの一般庶民を巻き込み、いかに愚かな行為であるのか、その残酷さとむなしさを伝えることは難しいが、でも伝えることはやはり大切なことである。NHKの朝のドラマ「純情きらり」は戦前の戦争一色になっていく日本の姿がリアルに描かれている。また本紙の「証言―語り継ぐ戦争」、八月十日から五回連載された「戦没船の遺言」は戦争や民間人の悲劇を語り伝えるものして見過ごすことの出来ない大切なシリーズである。
 終戦の昭和二十年、私は幼い三歳であった。〃三つ子の魂〃というが、筑紫平野の鳥栖市で生まれ育った終戦前後のことを実によく覚えている。
 空襲警報のサイレンが鳴ると、あわてて電灯を消し、庭の片隅に造られた防空壕へ家族全員で逃げ込んだ。爆弾を搭載した敵機B29の不気味な音が上空を通り過ぎるまで、かび臭い防空壕の中で息を潜めていたことを思い起こす。その後戦況が厳しくなり、田舎に疎開した。疎開先から、大空襲で真っ赤に燃え上がる久留米市の夜空を眺めていた。何故か、逃げ惑う人々のことよりも、花火のような美しい夜空に見とれていた。人影を見つけると、急降下して機銃掃射で、逃げ惑う多くの幼友達を殺戮したグラマン機のこと。筑紫平野の田んぼで、空襲警報が鳴り、乳母車の弟を路上に残したまま、母とあわてて田んぼに逃げ込んだ時の恐怖感が焼き付いている。
 終戦直後、食糧難で母の着物をリュックに背負い、農村に出かけては米と物々交換して帰ってくる父の姿。一度は父と一緒に農村に出かけ、列車から降りたところでヤミ米を検閲する警察官に捕まり、リュックに詰めてあった米が没収された。その時の父の哀れな姿に、屈辱感を幼な心に味わったことも記憶に鮮明である。
 ふりかえれば、戦争が終わって、日本人の多くが心底から思ったことは、「もう二度と戦争はしたくない」という平和の願いではなかったのか。それが今では非現実的なものとして、風化しつつあるのであろうか。
 〃国権の発動たる戦争を放棄し、陸海空軍その他の戦力は保持しない〃とする憲法九条。この人間としての高き理想をあくまでも求め、平和を築く外交努力を続けることこそが、戦没者の死を無駄にしないことであり、真の慰霊である。

第9回 田舎暮らしブームに思う 2006.10.2

第10回 唱歌「故郷」の豊かな世界 2006.10.30

第11回 高校・大学教育をゆがめるもの 2006.12.4