論点

第1回 太陽とともに起き眠る 2006.1.16

第2回 防犯の地域力は人間関係の中に 2006.2.13

第3回 マネーゲームには無縁の農業 2006.3.20

第4回 平成の農政大改革への危惧 2006.4.24

第5回 感謝して命をいただく 2006.5.22

第6回 農の風景「棚田」を守る 2006.6.19

第7回 食料輸入超大国の行方は 2006.7.24

 スーパーに買い物に行くと、安い外国産の食材がズラリと並んでいる。買い物客はつい安い方に手を伸ばしてしまう。毎日、食卓に上がる食べもののうち、どのくらいが外国産であるかを、認識して食べる人はまず少ないだろう。
 わが国の約四〇年前の食糧自給率七〇%が、現在四〇%にまで落ちた。四〇%という数字自体が、他の先進諸国に比べても異常に低い。フランス一三〇%、アメリカ一一九%、ドイツ九一%、イギリス七四%である。また他国の食糧自給率が右肩上がりに比べて、わが国のみが右肩下がりで推移してきた。つまり先進諸国は高い工業力を有しながらも、自国の農業を守り発展させているのに対して、わが国だけが農業を軽視し続けている。
 こうして日本は世界有数の食糧輸入超大国となっている。かって大英帝国時代を築き、世界を支配したイギリスは、食糧自給率を三〇%台にまで低下させたが、その後の反省から現在七〇%台にまで回復させているのは、同じ島国として注目すべきことである。
 食糧自給率四〇%というのは、わが国の農地面積が約五〇〇万㌶なので、残り六〇%の農地約一二五〇万㌶を外国に依存していることを意味している。わが国の約二・五倍もの農地を借地していることになる。毎年、農地の砂漠化や工業用地・宅地化で、世界の農地面積の伸びが鈍化している現状を見れば、農地の海外依存がいつまで持ちこたえられるのか甚だ疑問である。
 輸入食糧の生産にかかった水を水消費に含めて計算する「仮想水」という概念がある。例えば精米一㌔を作るのに約八㌧、小麦粉一㌔作るのに四㌧以上の水が、また、牛肉は一㌔に対して七〇~一〇〇㌧の水が必要と推定される。  「仮想水」から考えると、国内生活用水の年間使用量八九〇億㌧より多い一〇〇〇億㌧以上(約一・二倍)の水を海外に頼っていることが、文部科学省の総合地球環境学研究所の調査で明らかになっている。世界各地で水不足が深刻化し、水をめぐる争いが頻発すると心配されている。
 雨の多い日本では、水は豊富にあると考えがちだが、輸入食糧の背景にある水分を考慮すると、世界的な水不足の影響を直ちに受けることになる。  鶏肉、豚肉、牛肉や乳製品などの畜産物がそのもの自体は国産であっても、多くの飼料をトウモロコシなどの輸入穀物に頼っているため、畜産物が全体のわが国食糧自給率を実質引き下げている主要因となっている。故に食卓が畜産食品で賑わっていること自体が外国依存を意味している。家畜の飼育頭数が多く、畜産王国といわれる鹿児島県も食糧自給率低下の一端を担っていることになる。
 わが国の食糧生産の場である農村を見ると、四十五年前に六〇四万戸あった日本の農家は、現在二九三万戸となり、三一一万戸(五割減)も激減した。さらに今日では農業従事者は六五歳を超える高齢者が五割を超え、後継者は育たない。
 このままではどんなに声高に食糧自給率の向上を訴えても、国内生産量を増やす活力は落ちている。加えて平成の農政大改革により、圧倒的な数の小規模農家が切り捨てられれば、食糧自給率の向上はまず期待できない。
 輸入品目第一位のエビの輸入先は東南アジア。しかしトロール漁法で天然エビを乱獲し枯渇したため養殖エビに変わったが、養殖場造成で海岸線のマングローブ林を破壊している。加えてエビの高密度飼育と抗生物質多投で水の汚染が進行している。
 国内でも、大量の輸入食糧や飼料に由来する窒素過剰(家畜糞尿など)で、国土の環境汚染が進んでいる。そもそも食糧を遠隔地から持ち込むこと自体が、地域内の資源循環を断ち切ることになる。このように食糧の海外依存は国内外の環境破壊・汚染に関与していることも忘れてはならない。
 なお輸入食品をめぐる安全性も、残留農薬やBSEなど、問題が山積している。  今後のWTO交渉では、すべての農作物の関税引き下げは避けられそうにない。日本は輸入農作物におされ、二〇一〇年には七割の食糧を輸入に依存するようになるとの予測もある。消費者は食糧自給率四〇%問題にもっと関心を寄せ、市場原理や「安ければよい」だけでは済まされない今日のわが国の食糧・農業問題を、もっと真剣に考えてほしい。

第8回 二度と戦争を繰り返さない 2006.8.28

第9回 田舎暮らしブームに思う 2006.10.2

第10回 唱歌「故郷」の豊かな世界 2006.10.30

第11回 高校・大学教育をゆがめるもの 2006.12.4