論点

第1回 太陽とともに起き眠る 2006.1.16

第2回 防犯の地域力は人間関係の中に 2006.2.13

第3回 マネーゲームには無縁の農業 2006.3.20

第4回 平成の農政大改革への危惧 2006.4.24

 環境にやさしいリサイクル活動として、生活ごみの回収分別作業が、各地方自治体で定着したかのようだ。燃えるごみ、不燃ごみ、資源ごみ(リサイクル)の三つに大きく分けて回収される。私の住む集落では、そのうち不燃ごみと資源ごみは毎月一回、細かく九種類に分別して回収しているが、その末端の作業は、七〇歳以上のお年寄りの仕事となっている。私は集落の自治公民館の班長をしていた関係で、先日、このごみ収集作業に出向き、朝の七時~八時まで、公民館前の空き地で、お年寄りのお二人を手伝った。次々に持ち込まれるごみを種類別に分別して間違いないように収納するが、生憎の強い風雨の中で行うのは正直いってつらいもの。これが猛暑の夏や真冬の寒風の中での作業であれば、なおつらいだろうと思った。献身的に働くお二人の姿に感銘を受けたが、仕事の合間に「もうこの三月でこの仕事は辞めたいが、次にやる人がいない」とつぶやくお二人の話に、「集落の消滅」が私の頭の中をふとよぎった。
 後継者が育たない農村では高齢化・少子化がすすみ、集落の共同作業もままならず、耕作放棄地も増えて、農地は荒れている。加えて国際化で安い海外の農産物が大量に輸入されるようになり、わが国の食糧自給率も四〇%まで低下し、世界一流の食糧輸入大国に変貌した。
 戦後六〇年を迎えた今日、農業の担い手の多くも六五歳を超え、農村の高齢化率はさらに加速し、一人暮らしのお年寄りも増加している。後継者は依然として不在なため、このままでは集落の維持すら危ぶまれている。私の住む集落も高齢者が多く、すでに朽ち果てた家屋や納屋も増えている。
 全国の農村集落数は一四〇、一二二(平成二年)から一三五、一七九(平成十二年)と、この十年間で四、九四三(三・五%減)もの集落が消滅している(農水省「農林業センサス」。まさに農村コミュニティそのものの崩壊であり、「老いる村」から「消える村」への変貌である。わが国産業の就業総人口に占める農業就業者の割合もわずか三%、国民総生産(GNP)に占める農業生産物の割合も一・五%になり、すでにわが国の社会と産業の中で農業・農村の占める地位は極めて低いものとなっている。
 一方では、今多くの国民が迫り来る地球規模での食糧危機と、最近のBSEや鳥インフルエンザなど、食の安心・安全性への危惧から、わが国の四〇%という食糧自給率の異常な低さに気がつき、その向上を訴え始めている。しかしながらそれを担う農家数は減り、農村社会そのものが崩壊しようとしている農村の現実には何故かあまり目を向けていない。
 そのような中、政府は本年二月に、これまでの農業政策を抜本的に見直すとして、「品目横断的経営安定対策」という新農業政策を打ち出した。これは今までのバラまき的な農家への補助金制度を改めて、経営面積四町歩以上(北海道は一〇町歩以上)の農家、あるいは営農集団として二〇町歩以上の集落営農に限定して所得補償を行うとするものである。要するに多くの小さな農家を切り捨てて、足腰の強い農家を育成するという大改造である。机上のプランでは一農家が四町歩の農地を集積するのは簡単に出来そうだが、実際の山間部農村の現場においては、点在する小さな農地を集めるのは並大抵のことではない。仮に四町歩の農地を集めることが出来ても、飛び地からなる四町歩であり、移動距離多くして、トラクターなど機械作業の能率も落ちる。結局のところ、規模拡大しても生産効率は上がらない。また仮に規模拡大出来たとしても、集落は益々人が減り、少数の大規模専業農家のみになった場合には、その集落周辺の山、川、水路、公園、神社やごみ回収作業など、環境や施設を維持管理していくことは難しく、農村社会そのものの崩壊につながる恐れがある。集落には、兼業農家、小規模な農家、高齢農家、農的暮らしの人々など、多様な人々が多様なかたちで暮らしているのであり、これら構成員の共同作業によって地域が成り立ち、守られていることを忘れてはならない。また補助事業打ち切りで、小さな農家の農業放棄により食糧自給率はかえって下がる可能性がある。 その意味で農村という人間の集落社会のことが欠落し、生産主義に偏重する今回の新農業政策には問題が多く、異議ありと言わざるを得ない。

第5回 感謝して命をいただく 2006.5.22

第6回 農の風景「棚田」を守る 2006.6.19

第7回 食料輸入超大国の行方は 2006.7.24

第8回 二度と戦争を繰り返さない 2006.8.28

第9回 田舎暮らしブームに思う 2006.10.2

第10回 唱歌「故郷」の豊かな世界 2006.10.30

第11回 高校・大学教育をゆがめるもの 2006.12.4