時論「口蹄疫の本質は何か」

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口蹄疫の本質は何か

 2010年春、宮崎県で発生した口蹄疫は、当時の県知事が「非常事態宣言」をし、次いで総理大臣に「国家的危機」と言わしめるほど国民を恐怖におとしいれ、世間を騒がせました。しかし果たして、マスコミが連日大騒ぎするほどの恐ろしい病気だったのでしょうか。どうしてもぬぎい切れない私の素朴な疑問なのです。

 口蹄疫は人間には感染せず(まれには人間にもうつるという説もあるが)、牛、豚、羊、山羊などの偶蹄類のみに発症する特異的な病気です。罹っても治り、子畜を除けば致死率も低いのですが、感染力が極めて強く、家畜の増体や乳生産が低下するため、畜産農家には経済的に大打撃を与えます。しかも的確な治療法がないために、徹底したウイルスの封じ込めと撲滅作戦をとるしかありません。具体的宮崎県で行われたのは、牛豚の発生源周辺の全頭殺処分と移動制限、それに徹底した消毒管理でした。加えて地域内の人と車の移動やイベント自粛などにより、地域経済にも大きな打撃を与えました。

 なぜこれほどの大騒ぎとなったのか。それは国際獣疫事務局(OIE、パリに本部)の指針により、法定伝染病の口蹄疫は、ウイルスのいる「非清浄国(多くの発展途上国)」と、いない「清浄国」(多くの先進国)に分けられ、これを受けた世界貿易機関(WTO)が、非清浄国の家畜と畜産物は自由化の例外として(防疫対策上)各国は輸入しなくてもよいとしているからです。

 わが国にとっては、発展途上国からの安い畜産物の輸入を阻止できて、畜産業が守られているという現実があります。ところが、ひとたび口蹄疫が国内に発生すると、たちどころに非清浄国扱いを受けるので、発展途上国からの安い畜産物の輸入阻止と同時にわが国の畜産物も相手国から制限されることになります。このような大きな経済的損失を受けるため、今回のような必死の封じ込めと撲滅作戦が展開されたわけです。

 しかし世界がグローバル化され、人と物の往来が地球規模で頻繁に行われる今日では、人や物に付着する病原体を陸海空の国境ラインで未然に防ぐことはほぼ不可能なこと。また渡り鳥や野鳥説も浮上しますが、これらを全滅させない限り、空の国境ラインで防げるようなことではありません。

 そもそも人間を含む動物たちは、細菌やウイルスなどの病原体に対してその抗体を獲得し、抵抗力を身につけて対処してきました。これに抗して病原体は、耐性を獲得したり、新型の病原体となって反撃します。再び動物はその抗体をつくって対処する、この繰り返しが生物の進化です。したがって無菌化社会を進めることは、かえって動物の持つ免疫力を衰弱させ、自然界から遊離した人間を含む動物たちを危機におとしいれることになります。

 口蹄疫ウイルスに日頃遭遇しなくなった清浄国の家畜たちは、口蹄疫に抵抗力をもたないひ弱な家畜となり、このウイルスの侵入により発病して大騒ぎとなるのは必至です。今回もし全頭殺処分ではなく、発病しなかった家畜を残していれば、抵抗力のあるものを選抜することとなり、有効な防疫対策となったかもしれません。その意味でも口蹄疫を清浄国と非清浄国に分類すること自体を改めるべきです。そうすれば、今回の宮崎県のように約30万頭もの牛豚を全頭殺処分したり、地域経済に混乱を招くことはなかったはずです。

 私がよく訪れる非清浄国の東南アジアでは口蹄疫で大騒ぎすることはありません。日々平穏に人間と家畜の共生が図られています。一方、清浄国の欧州では常に口蹄疫ウイルスの持ち込みの危機にさらされ、行政担当者の嘆きの声も聞かれるとのこと。

 もう一つ指摘しておきたいことは、この背景にある戦後の畜産近代化の問題です。戦後のわが国の畜産は、安全よりも経済効率を第一義に考え、屋内飼育の施設型の規模拡大路線を推し進め、一極集中型の大量飼いで、輸入飼料に依存してきました。これでは家畜本来の抵抗力は失われ、病気に弱い家畜となってしまいます。病原体に感染した場合には一気に畜舎内に広がり、大量死する危険があります。また外国依存型の飼料では、病原体が付着した輸入飼料が持ち込まれる危険性も常に高いのです。かって大騒ぎしたBSE(狂牛病)がそのよい例です。

 以上述べてきたように、口蹄疫の本質的課題は旧態依然たるOIEの指針の再検討とわが国の近代化畜産の改善にあるのではないかと思います。未曾有の口蹄疫問題を経験したわが国として、OIEに対し口蹄疫指針の再検討を迫るべきではないでしょうか。そうすれば口蹄疫発生で苦悩する隣国の台湾や韓国も歩調を合わせてくるのではないかと思われます。また欧州諸国も理解を示してくるのではないかと思われます。

 近代化畜産の改善は、健康な家畜の飼い方と国内地域飼料資源に根差した畜産のあり方を本気で考えるところにあるのではないでしょうか。

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